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ヨット<マイウェイ>の航海

“夢”実現へ。
夫婦二人、太平洋往復331日



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<Fang>オーナー・スキッパー
木村毅生さん

<Clear Water>オーナー・スキッパー
原谷英司さん

30数年前に、一度あきらめかけた夢を再び追い求め、現在、世界周航の途にあるヨットマンがいる。昨年秋からアイスランドに愛艇<Fang>(デュフォー36.5)を泊め、一時帰国している木村毅生さん(62歳)その人だ。

一方、妻と子ども三人を連れてこれから世界周航に出かけるのが<Clear Water>(X-442)の原谷英司さん(47歳)。

二人のヨットマンが情報交換も兼ねて、メ浜の海で長距離航海に寄せる思いを語り合った。


世界巡航にかける思い

木村さんの<Fang>が釧路を出港したのは2008年6月4日のことだった。ベーリング海を北上し、ロシアのペトロパブロフスクカムチャツキーを経由して6月30日にアラスカ(米国)のノームに到着した。その後、北米大陸に沿って南下し、パナマ運河を通過したのが2009年1月。その後再び米国・東海岸を北上し、グリーンランドを経て9月12日にアイスランドのグリンダビークに到達した。

<Fang>は、現在、ヘイマエイ島(アイスランド)に停泊しており、天候が落ち着くのを待って5月上旬には再び出航する予定だ。そしてこの先、フェロー諸島やイングランド、ジブラルタル海峡を経由し、スエズ運河をめざす。

<Fang>で木村さんとともに世界の海を旅するのは若手のヨットマンたちで、メンバーは途中何度か入れ替わっている。ヘイマエイ島から乗船するクルーは、日本から木村さんと航海をともにしているエンジニア兼ボースンの朝長龍太さん(29歳)、ニューヨークから合流した茂木春菜さん(27歳)、そして、アイスランドから新たに加わる森庄三さん(50歳)の3人だ。

木村さんは30数年前に夫婦で太平洋を周航した経験を持つ。油壺からシアトル、メキシコ、パナマ、ガラパゴス諸島、そして、イースター島へ。しかし、そこで航海はストップ、強風によるヨットの座礁で帰国を余儀なくされた。そのときの無念さが、子どもが独立し、時間的にも余裕の生まれたいま、再び、夢の実現へと駆り立てる原動力となっているのである。


家族5人で世界周航の旅へ

世界周航中の途中、一時帰国した木村さん、朝長さんとこれから
世界周航に旅立つ原谷さん一家

<Fang>の木村さん(左)とクルーの朝長さん


その木村さんを追いかけるように、同じく5月のゴールデンウィークに日本を出港するのが東京都在住の原谷英司さん。妻の順子さん(36歳)、3人姉妹の郷音ちゃん(8歳)、奏音ちゃん(6歳)、静音ちゃん(4歳)とともに、横浜からまっすぐアラスカのダッチハーバーを目指して旅立つ。

原谷さんがヨットを始めたのは20代前半。当時から『ヨットで遠くに行きたい』という夢を抱いていたが、当時はもっぱらレースを中心に楽しんでいたという。今度の世界を巡る長距離航海に向けて計画を立て始めたのは3年ほど前から。広島に住む山下健一さんが出版した家族4人の航海記『太平洋は学校だ』(新風舎刊)にも影響を受けた。

「アラスカから後は南下してカナダ、アメリカ西海岸、メキシコへと向かう予定です。航海の計画は約3年、とりあえずメキシコ辺りまで行って、子どもたちの様子や船の具合などを見直して、さらに、その先、旅を続けるかどうかを検討したい。機会があれば、ぜひ海外のヨットレースにも参加したいですね」(原谷さん)

3年という区切りは、長女の郷音ちゃんが中学校に入学する前に帰ってきたい、という思いがあるからだという。


郷音ちゃん(8歳)、静音ちゃん(4歳)と愛犬“あずきちゃん”

次女の奏音ちゃん(6歳)



仲間同士の情報交換が大切

船は子どもたちの立派な遊び場


5月に出港することについて、経験者の木村さんは「ベーリング海は低気圧の墓場だと言う人もいますが、夏場はそんなこともなく静かなので良い時期だと思います。僕らのときも穏やかで15ノット以上の風は吹かなかったですよ」と語る。その代わり、航海中は機帆走で走ることが多く、かなりの燃料が必要だったそうだ。そんなアドバイスを受けて、原谷さんも万全の対策を講じて出かけるという。

「5月に日本から周航する場合は、航海の最初と最後が一番きつい。最初は目一杯燃料を使うから、燃料タンクの他に、ポリタンクに積んでいくのもいいですよ。アラスカに着けば、あとは3日かそこらの航海で行けるところばかりだから」(木村さん)

家族と一緒に航海する原谷さんにとって、何より不安なのは子どものケガや病気。小さい頃からヨットを遊び場に育った子どもたちは、船の中を縦横無尽に駆け回る。だから、万一の落水に備え、必ずライフジャケットを着用させるなど細心の注意を払うつもりだ。

そして、次に気がかりなのが書類など各国での事務手続きだという。木村さんによれば、米国は州ごとに法律が異なり、その都度、税関に行きお金を支払う必要があるという。

担当者によってもかなり対応が違うらしく、「女性の係官は、何事も細かく、あまり融通が利かないから極力避けたほうがいい(笑)」と、具体的なアドバイスも‥‥。

「結局、どこまで航海出来るかは予算次第なのですよ。どれだけ節約して生活できるか‥。出来るだけ長く航海していたいのですが、予算にも限りがありますから」(原谷さん)  「子どもたちがいても、食費はそんなに掛からないですよ。スーパーで安い物が買えますからね。一番費用が掛かるのはヨットの修理や補修。例えば、エンジン部品やマスト回りなど、どこかが壊れた時は自分たちでは直せない。船を上架しなければならないし、とにかくお金が掛かります。エンジン部品などは、ニューヨークあたりなら全部揃っていると思うけれど‥ところが、米国では在庫を持たないから、足りない部品はその都度ヨーロッパの小さい町から取り寄せなければならないのです」(木村さん)

また、長距離航海で何よりも大切なのは“情報”だと木村さん。 「どこの港にも親切なヨットマンは大勢いますから、とにかく話を聞いてみるといいですよ」と原谷さんにアドバイスするように、<Fang>も、現時点で航海計画を立てているのはスエズ運河まで。その先は、現地でいろいろな人から情報を得ながら進路を考えていくという。


“学校訪問”が効果的な友好手段

原谷さん一家の愛艇<Clear Water>(X-442)


 そしてもう一つ、木村さんが勧める効果的な友好手段が“学校訪問”だという。木村さんと朝長さんが大の子ども好きということもあり、<Fang>は、これまで寄港地ではいつも現地の学校を訪れ、子どもたちと交流してきた。例えば、港に停泊していた1週間の間に、現地の子どもたちが入れ替わり立ち替わり<Fang>に遊びに来て、友好を深めるような状況もあったという。

「ダッチハーバーや他の港でも、まず、入港したら現地の学校に行ってみるといいですよ。そんな時は、誰かに紹介してもらうなど仰々しいい続きを踏むのではなく、直接学校に行って校長を訪ねる。そうすれば、大体がウェルカムです(笑)」(木村さん)

日本の感覚からすれば、事前の連絡もせずに学校を訪ねるなど思いもつかない発想だが、これまでの航海で、木村さんたちが断られたのはたったの1校だけ。それも「15時過ぎと、訪問時間がよくなかった」からで、子どもたちが下校後だったというのがその理由だ。

「『日本からヨットで来ました』と挨拶すれば、みんなすごく喜んでくれるんです。原谷さんはお子さんと一緒なわけですから、ぜひ学校に行ってみてください。すぐに友達ができると思いますよ」(木村さん)


父親の仕事の関係で、子ども時代をレバノンとドイツで過ごした原谷さん。「外国で過ごした経験は、自分にとってそれなりによかったと思っているんですが、果たして、今度の航海が子どもたちの将来にとって良いことかどうか‥」と笑いながら語る原谷さん。 しかし、そんな原谷さんを誰よりも理解し、支えるのが奥さんの順子さんだ。

「『いつかヨットで遠くに行く』と主人から聞かされ続けていたので、今度のことも 違和感がないというか、周りに言われるほど大変だとか不安という思いはないんです よ」

そんな原谷さん一家だが、唯一の心配事が日本に残していく愛犬ゴールデンドゥードゥルの“あずきちゃん”(8か月)のことだ。「初めは、一緒に連れて行くつもりだったが‥」、帰国時の検疫等の問題から断念し3年の約束で知人に預けることを決めた。

<Clear Water>のデッキで、『早く出発したい』と口を揃える木村さんと原谷さん。木村さんは素晴らしい仲間たちと、原谷さんは愛する家族とともに――。 それぞれが、憧れの大海原へ船出する日はもうすぐ、そこに迫っている。


構成/勝亦理美
撮影/勝亦理美、朝長龍太

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