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新着情報

2025年08月07日

第205回目を迎えたYBM・ISPAクルーザースクール…
好天、順風に恵まれて、“最高のレッスンが出来た6日間”

 セーリング技術の基本を6日間でマスターする!
 横浜ベイサイドマリーナで、第205回目のISPAクルーザースクール(6日間コース)が、7月19日~21日、25日~27日の6日間にわたって開催された。
 参加者は、男女合計4名、65歳~22歳の老若男女が、セーリングクルーザーの操船技術習得に挑戦した。
 
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 ISPA(International Sail and Power Academy)は、セーリングにおける国際的な資格やプログラムの開発、その運用を目的とした組織で、イギリスのRYA、アメリカのASA、カナダのCYAなどのプログラムを再検討しながら1994年にカナダのバンクーバーで誕生した。ここでは、セーリングの運用術を学べるのはもちろんのこと、国際ライセンスであるISPAの修了証があれば、海外でクルーザーをチャーターしてクルージングを楽しむことが出来る、という得点がある。
 すでに、世界各地のクルージングスポットには、ISPAのサーティフィケート(修了証明書)を取得した大勢のヨットマンたちがクルージングを楽しんでいる。
 ISPAの本部はカナダのバンクーバーにあり、日本では、横浜ベイサイドマリーナほか数か所でスクールが開校されており、ヨットの初心者からベテランセーラーまで満足できるプログラムでスクールを実施している。
 
憧れのクルージングスポットへ…夢を現実に
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 さて、スクール初日は、講義の概要説明から始まった。
 YBM・ISPAスクールの特徴の一つは、30ft前後のクルーザーを2人で安全に操船するための基礎的な知識と技術を、効率よく短期間で習得できること。加えて、二つ目に講習を無事に成し遂げれば、世界で通用するサーティフィケート(修了証明書)が取得でき、世界の海で、チャーター・クルージングを楽しむことが出来ること。さらにもう一つ、ISPA修了者対象のスキルアップを目的とした、充実した内容のトレーニングコースや、瀬戸内海など国内のクルージングスポットを2~4泊しながら、実際のクルージングを体験できる長距離クルージング体験トレーニングコースなど、アフターフォローが充実していることだ。
 
 ベテランインストラクターの指導のもとに…
 第205回目のスクール受講生は、男性2名、女性2名の合計4人が受講した。
 「ちょうど、会社をリタイアしたので何か新しいことに挑戦したくて…」
 「ボストンの大学に留学している大学院生です。夏休みで帰省中を利用して…」
 「ただ、乗っているだけでは物足りなく、自分で実際に操船してみたくなり…」
 「外国に住んでいるのですけれど、ヨットを習うなら日本のほうがいいかなと…」
 受講の動機はそれぞれ異なるが、これからの6日間をともに学ぶ仲間たちは、講習初日、いささか、緊張の面持ちでスクール初日を迎えた。
 YBM・ISPAスクールでは、実際に教室、マリーナで実技講習を受ける前に、オンラインコースで事前にカリキュラムを予習出来るシステムがあり、スクール参加者の好評を得ている。基礎的な知識を予習出来ることで、受講生は余裕を以って講習を受けることが出来るわけだが…さて、いざ実際に海に出てみると…
 
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 「講習の目的は、ISPAコンピテントクルー及びデイスキッパー資格取得にあります。海外、例えば、バンクーバーでの1週間のクルージングコースを受講するには、このコンピテントクルー、デイスキッパー、コスタルナビゲーションという3つの資格を取らなければ参加出来ません。従って、今回、受講した皆さんは、まず、コンピテントクルー、デイスキッパーの資格取得を目指して、操船、帆走技術の基本をしっかりとマスターしてください。
 しっかりと教えますから、しっかりと覚えてください。わからないことがあればその場で質問してください…」
 今スクールの講師は、YBM・ISPAクルーザースクールでチーフインストラクターを務める飛内秋彦さん。大学時代はヨット部のキャプテンとして活躍。ヤマハ発動機入社後も、業務の傍ら、ソウル、バルセロナ五輪のコーチを務めるなどセーリングに精通。ヤマハセーリングチームのGM兼監督として東京五輪を目指した後は、フィッシャリ―ナ天草支配人を経てISPAチーフインストラクターに。1998年に、ISPA日本スクールを開校した岡田豪三さん(前チーフインストラクター)が、一昨年、惜しまれて勇退した後、その後継者としてISPAを牽引するベテランセーラーだ。
 
熱のこもった講義内容は…飛内秋彦チーフインストラクター
事前にオンライン講習を受けている受講生…講義もスムーズに
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 ISPAコンピテントクルーレッスンの講義概要は…
 今回の、ISPAコンピテントクルーレッスンの具体的な講義概要を記してみると…

1日目=(講義)ISPAのシステム、資格の説明。各部の名称と役割。用語解説。セールの役割、アンカーリング、ドッキング。
(実技)講習艇にて各部の名称とその役割。航海計器、セール。
2日目=(実技)ヨットの基礎①。ボートハンドリング。ドッキング、ドックアウト、ポイントオブセール。
(講義)安全管理、安全備品、マリンヘッド、気象学、セールのベンドオン。
3日目=(実技)ヨットの基礎②。ベンドオン、ポイントオブセール、セーリング。
(講義)走らせ方の基本、カミングアバウト動作、ジャイビング動作。ナビゲーションライト、事故予防、海上衝突予防法、セーリング3原則、リーフィングシステム。
4日目=(実技)セーリング実践①。ドックでのリーフ作業。海上でのリーフ作業。ポイントオブセール、セーリング。
(講義)ヨットの走るわけ。ハイボセラミア、国際ブイシステム。MOB理論と動作。
5日目=(実技)セーリング実践②。MOB。ポイントオブセ、MOBアンダーパワー、ヒービング・トゥ、MOBセーリング。
(講義)MOB。
6日目=(実技)仕上げクルージング(YBM⇔浦賀・ベラシスマリーナ)
(講義)修了式。

 (天候、風、波等、気象状況によって講義内容、カリキュラムの変更があります)
 
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 出航前の準備を“ベンドオン”と呼ぶ。いつでもセールアップできる状態にしてセール、
 シート類を整理しておく。これらの基本的な作業は毎朝、繰り返し練習する。
 その手順としては、セールカバーを外しメインシートのフレークを解く…後方からきれ
 いに、セールカバーをたたんでいく…ファーリング式のジブの準備…ヘッドとタックを固
 定しホイストしてきれいに巻いておく。整理整頓が安全な操船の基本だ。
 
基本を大切に、反復練習で練度を高めていく
 順風から強風まで、最高のレッスンが出来ました…
 好天に恵まれたなか、実技講習の6日間が始まった。
 配布されたマニュアルを見ると、基礎から応用までボートハンドリング、セーリングのノウハウがいっぱい詰まった講習内容で、中味の濃い6日間になりそうだ。
 初心者にはちょっと荷が重いかも知れないが、繰り返し、毎日練習することによって、修了後は、立派なヨットマンとして巣立っていくという。
 まず、基本的な操船方法、離着岸の基本となるシングルラインドッキング、ドックアウトの動作を徹底的に覚えることから始まった。
 シングルラインドッキング(着岸)は、スターンスプリングライン1本(シングルライン)を取り、エンジンのギアを微速前進に入れて艇を着岸する方法。つまり、1本のロープのみを使用し、スキッパーとクルーが力を合わせて安全に着岸する方法。逆に、ドックアウト(離岸)はスターンスプリングライン1本を残し、クルーのレディ(準備OK)の合図でヘルムスマンはエンジンギアを微速前進から中立に変更、クルーがスターンから乗り込むのを確認してギアを微速前進。桟橋と舷側の距離を十分にとって離岸する。
 離着岸の方法は、自力で海に出て安全に帰ってくるための必須技術。ロープワークも含めてしっかり覚えることが大切だ。
 
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 スクール4日目からは実践的なセーリング講習が始まった。
 7月19日から連日30度を超す猛暑のなか、水分補給を十分に、女性陣は万全の日焼け止め対策を施し海へ。確かに、気温は30度を超えてはいるが、心地よい南風が吹いているので快適なセーリングが楽しめる…が、セーリング講習はそれほど甘くはなかった。
 飛内インストラクターの指示で、4人の受講生が交替で艇長(ヘルムスマン)、メインセールトリマー(メインセール担当)、ポートジブトリマー(左舷ジブシート)、スターボードジブトリマー(右舷ジブシート)と役割分担し、クローズホールド、ビームリーチ、ブロードリーチと風に合わせて走らせるのだが、4人が其々の仕事を理解し、確実に実行しないとうまく操船できないことを肌で感じる。
 「いいかい!これで教えるのは4度目だよ。ジブシートをすばやく離す…」
 飛内インストラクターの大声に励まされて、幾度も練習を重ねていくうちにカミングアバウト(タッキング)、ジャイビングの練度があがっていく。
 優れたカリキュラムに則って、システマチックな操作方法、動作を繰り返し反復練習することによって、ヨットが初めての受講生も講習が終わるころには一人前のクルーとして育っていくところが、ISPAクルーザースクールの特色でもあり、国内で約1、000名の卒業生を育てた所以でもあるに違いない。
 
学んだ手順を反復練習することで練度を高めていく
女性陣はご覧のごとく日焼け防止の覆面姿で…
1日のセーリング実習が無事終わり満足げな受講生の皆さん
 受講生全員、無事修了式を迎えて…
 「第205回目のISPAスクールは、無事終了しました。この6日間は晴天下、順風から強風まで風に恵まれて最高のレッスンが出来ました。
 最終日の27日は、ベイサイドマリーナから浦賀のベラシスマリーナまで往復22マイルの航海を計画していましたが、観音崎を過ぎた頃から南西の20ktオーバーの風と波で、午後はさらに強くなる予報だったので安全を考慮し、ベイサイドマリーナに方向転換。
 往路は14~16ktのクローズホールドでメインは1ポイントリーフ。復路はブロードリーチでフルメイン、スピードは6~7kt。
 仕上げセーリング/卒業試験を経て、新しい4人のセーラーが誕生しました」(飛内秋彦チーフインストラクター談)
 
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M下さんは米国留学中の大学院生、デイスキッパーの資格を取得した
飛内チーフインストラクターを囲んで…
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 第205回目のISPAクルーザースクールの受講生は、全員が無事にサーティフィケート(修了証明書)を取得して6日間のスクールが終了した。4人が手にしたログブックには修了を示す刻印とサインが刻まれていた。

 真夏を思わせる猛暑のなか、受講生4人が心を一つにして挑んだISPAクルーザースクール…新たに誕生した4人のセーラーは、更なるスキルアップを重ねて、やがては世界中の海で、セーリングの楽しさ、醍醐味をぜひ味わって欲しいものだ。(取材・文/本橋一男)
 
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飛内秋彦(とびないあきひこ)
1958年青森県生まれ。大湊高校から日本大学を経てヤマハ発動機に入社。学生時代からヨット部で活躍し、ヤマハ発動機入社後もソウル、バルセロナ五輪のコーチ等を務める。ヤマハセーリングチームのGM兼監督として五輪を目指した後は、フィッシャリ―ナ天草支配人を経てYBM・ISPAクルーザースクールのチーフインストラクターとして活躍する。


撮影/飛内秋彦、yachting編集部
取材協力/横浜ベイサイドマリーナ株式会社
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